2026年現在の半導体ブームは、人工知能AI(Artificial Intelligence)が牽引しています。ディープラーニング(深層学習)を用いたAIの発展に伴い、各地でデータセンターの建設が相次いでいます。そして、そのデータセンターに膨大な半導体デバイスが使われるということで、半導体の需要が増加しています。また、地政学的な観点で各国に半導体工場を作る動きもあります。半導体エンジニアの活躍の場も増えていくことでしょう。
AIはGPU、HBMなどのハードウェア(半導体デバイス)とディープラーニングやニューラルネットワークなどのソフトウェア、アルゴリズムで構成されています。

GPU
AIの計算には、GPU(Graphics Processing Unit)が用いられています。もともとGPUはパソコンのグラフィックボードに過ぎませんでしたが、3D画像の演算に用いられる並列演算の機能がAIの計算に都合がよく使われるようになりました。
主にパソコンなどの計算処理はCPU(Central Processing Unit)と呼ばれる中央演算装置が行っています。CPUは今でこそ複数のコアを内蔵してマルチスレッドで並列演算できるようになりましたが、もともとは1コアのシングルスレッドの演算しかできませんでした。マルチスレッドの計算ができるようになりましたが、それでも数十くらい並列演算処理です。
それに対して、GPUの並列演算機能は、数千から数万を同時に並列演算できるのでCPUと桁が違います。GPUは、CPUが行う演算(命令)をすべてを実施することができませんが、3D画像処理に特化した命令の演算だけに限定することで、並列演算の機能を大幅に上げたものです。データセンターではさらにそのGPUを複数使っています。
この並列演算をAIの計算でよく使われる行列演算で使うと、より高速に計算することができるということになります。
HBM
GPUの中にはHBM(High Bandwidth Memory)と呼ばれるメモリが使われています。このHBMの正体はパソコンでもよく使われるDRAM(Dynamic Random Access Memory)です。HBMはDRAMのチップ3次元的に積み上げて作られたものになります。HBMひとつを作るのに複数のDRAMチップを使うのでDRAMチップの消費も多くなります。昨今のパソコン向けDRAM不足は、データセンターで使われるHBMの方が利益がよく需要も高いため、HBMばかりDRAM工場の生産キャパが使われていることに起因しています。

GPUでは並列演算、行列演算が高速ですが、計算時に一時的にデータを記憶しておくメモリもその並列演算に対応したものが要求されます。HBMはその記憶装置・メモリとして名前の通り並列にデータが送られてきても並列にメモリにデータを記憶させることができます。HBMはDRAMを3D実装して作られていますので、そのDRAMチップへ同時にデータを流し込めばそれを並列でメモリへ記憶させられるという訳です。
3Dのメモリというと、3D-NANDフラッシュメモリがありますが、これはデータの書き換え速度がDRAMに比べて遅く演算処理に対してメモリの記憶速度が遅くGPUの記憶装置として向いていません。3D-NANDは記憶容量を増やすために3D化しており、データの書き換え速度はDRAMに遠く及びません。データセンターでも3D-NANDフラッシュメモリをSSD(Solid State Drive)としてデータのストレージに使うかもしれませんが、AIを演算している最中に一時保存する記憶装置としてはHBMが使われます。
ニューラルネットワーク
ニューラルネットワーク(NN)は、人間の脳にあるニューロンをコンピュータ上で模したものになります。よくある下の図のようなものです。丸ひとつひとつがニューロンを現しており、入力された信号に対して何らかの演算をした結果を信号として出力します。この何らかの演算というのがミソで、入力に対して出力を返す何らかの演算をするものを機械学習で教え込むことができる機構を設けたものが、ニューラルネットワークとなります。

ニューラルネットワークの正体はソフトウェアのアルゴリズムですが、コンピュータで一度プログラミングした計算を後から機械学習させることで様々な計算方法に可変できるようにしたところが画期的です。脳のニューロンをコンピュータで表現したものですが。
上図では縦に並んだ丸が横に4列ある例になりますが、これはニューラルネットワークが4層の例になります。ディープラーニングでは、この層がもっと深い多層になったものになります。層を深くしたり、ニューロンの数を増やすことで、様々なことができる(表現できる)ようになりますが、それだけ半導体デバイスの性能も必要となります。
なお、広い意味でのAIは必ずしもニューラルネットワークを使う訳ではなく、他のアルゴリズムを使う場合もあります。AIのアルゴリズムは、ニューラルネットワークに限らないということです。
AIについて
どこまでAIが発展するのか、今後どうなるのか未知数です。AIをさらに発展させるには半導体(デバイス)の発展も欠かせないでしょう。
AIがすごいと言われますが、人間の脳も相当すごいものです。人間の脳における消費電力は約20Wと言われる一方で、データセンターは数万kWと聞きます。如何に人間の脳が低消費電力で高性能なのかと思います。AIがチェス、将棋、囲碁で人間に勝ったと言っても、その裏では莫大なデータ演算装置を稼働させているのです。きっと同じ消費電力でという制限を設けれて人間とAIが対戦すれば、人間が勝つでしょう。AIを動作させるGPU、HBMなどの半導体デバイスとソフトウェアのアルゴリズムで人間の脳・ニューロンを模したと言っても、まだまだ人間はすごいものです。半導体デバイスも今後発展を続けると思いますが、人間の脳のような低消費電力で高性能を両立するようなものを完全再現することはできないだろうと思います。脳における特定の機能を模擬することはできるでしょうけど。
それでも、AIは消費電力が高いものの人間ひとりでは経験や計算できない膨大な量のデータを演算することができます。シンギュラリティ(AIが人間を超える技術的特異点)が起きるのか、それともその膨大な演算で消費する電力を賄えず、結局、AIは人間を超えることができないのか、今後どうなることやら。
ライター: 有峰行信
参考
- 松尾豊、「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」、KADOKAWA(2015).
- Hisa Ando、「[増補改訂]GPUを支える技術 超並列ハードウェアの快進撃[技術基礎]」、技術評論社(2021).




