半導体製造とAI

AI

人工知能AI(Artificial Intelligence)に関連した企業が活況な状況が続いています(2026年6月現在)。一方で、AIを使うための半導体デバイスの製造では、AIが使われているのか? 筆者の経験を元に現状を述べてみたいと思います。

半導体製造装置

半導体製造装置に、AIが使われているかと言うと、意外にまだあまり使われていないのが現状なのではないかと思います。一般のAIと言うと、ニューラルネットワーク(人間の脳にあるニューロンをコンピュータ上で模したもの)を使ったディープラーニング(深層学習)を用いたものをイメージする方が多いと思います。そして、データセンターのような、AI半導体(GPU; Graphics Processing Unit)を並べたサーバーを用いる、という印象かと思います。現状はそこまで行っておらず、あくまで半導体製造装置を制御しているワークステーションやパソコンでできるレベルというのが実情です。

半導体製造工場とデータセンターをネットで繋ぐのは、情報漏洩の観点からも行わない企業が多いのではないかと思います。情報漏洩リスクを考えると、工場内にデータセンターを作るところまで考える必要がありそうです。データセンターを使わない場合、あくまでもできることは小規模なAIに留まります。半導体工場は企業の機密情報で溢れていますので、データセンターとネット経由で接続をするのか、しかいのかは、便利さと機密情報の保護の天秤が導入判断の分かれ目です。一エンジニア判断ではなく経営判断に依る案件です。

現状、AIとして半導体製造装置でよく使われるのは、「画像認識」です。それ以外、筆者は見かけたことがありません。画像認識もAIの一種です。世の中に広まるとAIと呼ばれなくなるのが、AIのようです。画像認識のAIを計算するのも、半導体製造装置に内蔵している一般的なワークステーション、パソコンでできるレベルのものとなります。あくまで外部のデータセンターに依らずに、内部でできるもので、特定用途に限った小規模な画像認識というところです。

画像認識は、半導体Siなどのウェハ(基板)の位置精度を上げるために使われます。ウェハは、同一の装置ですべての工程処理をする訳ではなく、各工程の専用装置で処理するため、製造装置間を搬送して処理されて行きます。このとき、メカ(機械)でウェハを搬送しても、搬送した位置に微妙なずれ・ばらつきが発生します。そのため、位置ずれにシビアな工程では、画像認識でウェハ上のマークを認識して位置の補正をする必要があります。半導体デバイスは、同一ウェハ上に何層もの薄膜を重ねて回路パターンを転写して作られますので、その各層のパターンが同じように合わせて作られていないとデバイスが作れない(不良品になる)のです。

半導体製造装置に本格的なAIが使われるのは、まだ先でしょう。とは言うものの、2025年 SEMICON Japanの講演で、AIを使う半導体製造装置を開発するということを装置メーカーが言っていたと思いますので、今後、そのような半導体製造装置やそのサービスも出てくるのではないかと思います。まだ、開発段階というのが現状ですね。

製造処理パラメータとAI

半導体製造の現場では、半導体(デバイス)の品質を保つために製造装置の処理を行うパラメータを制御する必要があります。半導体は同じように製造しても、実は様々な要因(材料、装置、温度、湿度などのばらつき)で微妙に特性が変わってしまいます。半導体を動作させるには、その特性をある特定の範囲内に収めて製造する必要があります。そうでなければ、半導体が正常動作範囲外となって不良品となります。そのため、製造装置の処理パラメータを半導体エンジニアが微妙に調整をしていることがあります。

その処理パラメータ制御をAIでできないかと、筆者もチャレンジしたことがあります。下記の文献を参考に、AIをプログラミングで作ってやって見ましたが、中々、精度よく行おうとすると難しいというのが印象でした。ディープというほど深くもないニューラルネットワークのものでパソコンで計算できるレベルのものを作りましたが、そこまで精度が出せなかったです。本格的にやればもっと精度が出せるのかもしれませんが、良くて8割ほどの精度というところでした。AIの勉強にはなりましたが、まだ、半導体エンジニアの経験と、データを元に計算した方が正確でした。

  • 斎藤康毅、「ゼロから作る Deep Learning -Pythonで学ぶディープラーニングの理論と実装-」、オライリー・ジャパン(2016).

AIのモデルも、何のパラメータを学習させるのか、ニューラルネットワークの層数、ニューロン数など、色々、検証する箇所はあります。専門でAIエンジニアをやっている人だと、そういう点でも何かコツやノウハウもあるのかもしれません。

現状、万能なAIはありません。上で述べた画像認識AIも画像認識にフォーカスしてニューラルネットワークの構成を専用に作っているものです。画像認識も、対話もできるなど、人間の脳のように何でもできるAIはないでしょう。半導体製造の処理パラメータを○○GPTに与えても、良い回答は得られません(会社外に機密情報を持ち出すという別の問題があり、実際にはできませんが)。それゆえ、半導体製造に関しても処理パラメータを最適化する専用のAIを作ろうとすると、半導体エンジニア、AIエンジニアなどのエンジニアが作るしかないところです。

なお、半導体製造装置の処理パラメータを制御するために作ったAIは上司からは評価されませんでした。精度もあまり出ず、半導体製造の安定性を向上させたという実績にもなりませんでしたので。サラリーマンの半導体エンジニアとはそういうものです。

半導体エンジニアも、繁忙期と閑散期があります。暇な時はAI作ったり、割と何をやっていても(業務に関連のありそうなことを)良い部分もあります。どこまで許されるのかは、会社や職場、上司にも依る部分は多分にありますが。

ライター: 有峰行信

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